イン・ザ・プール
- 作者: 奥田英朗
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/03/10
- メディア: 文庫
- 購入: 20人 クリック: 267回
- この商品を含むブログ (469件) を見る
奥田英朗さんの短編小説集です。第127回直木賞候補となった作品で、のちにドラマ化や映画化、アニメ化されています。
全5編からなる短編集で、すべて伊良部一郎という神経科の医師の元を訪れてくる患者たちの物語です。神経科の医師というとカウンセリングや薬の処方などで患者の症状を改善させていくイメージですが、この伊良部一郎という男はカウンセリングなどしないと断言し、患者に対して冗談に聞こえるようなアドバイスをしてみたり、自分がやりたいことを優先してみたり、子供がそのまま大人になったような人物です。
例えば小説のタイトルと同じ「イン・ザ・プール」という話では、ストレス性の体調不良を訴える出版社勤務の大森和雄に対し、ストレスの元を探して根絶しようなんて無駄なことと言い放ち、せいぜい運動することをアドバイスするくらいです。一方、運動をすすめられた大森和雄は近所の区民体育館のプールで水泳を始めるのですが、次第にのめり込み、伊良部も誘って二人でプールに行くようになります。プール依存性のようになってしまった二人は自由に長時間泳ぎたいという欲求が増していき、ついに伊良部は夜のプールに忍びこむことを計画します。
この他にも次のような短編があります。
- 妻に浮気されて別れた男性の「勃ちっぱなし」
- 誰かの視線を感じると訴える自意識過剰な女性の「コンパニオン」
- 一日200回以上の携帯メールで友達と繋がっていたい男子高校生の「フレンズ」
- たばこの火の始末が気になって何度も確認せずにはいられないルポライターの「いてもたっても」
それぞれの患者が伊良部のいい加減とも思えるような診察を受けて結果的に救われていく様子は、読んでいて不思議な爽快感があります。