黒冷水
- 作者: 羽田圭介
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 文庫
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2015年芥川賞を受賞した羽田圭介さんのデビュー作で、第40回文藝賞を受賞した作品です。
中学二年の弟・修作は、高校二年の兄・正気が留守の間に、兄の部屋をあさってエロ本やエロ動画を見つけることを喜びとしていました。兄が帰ってくるまでの限られた時間で、どこをあさり、獲物を見つけ、「使用」し、あさったことがばれないように正確に元に戻す。修作は自らを「プロのあさり屋」と自負するほどです。
ところが、兄の正気は弟のあさり行為に気づいていました。気づくどころかあさりの手口の荒さに閉口し、本人はばれていないと思っている弟の稚拙さに苛立つほどです。正気は、何度となく繰り返される弟のあさり行為に対して、様々な方法で報復します。それは肉体的に傷つける方法もあれば精神的に追い込む方法もあります。
この兄弟の間にはほとんど会話がありません。互いの主張は父や母に対する会話の中で間接的になされます。これほど互いの行動を意識し嫌悪しているにも関わらず、ほとんど会話がないところに、「冷戦」のような緊張感を感じます。
一見、エロ本を巡るたわいもない兄弟喧嘩に思えますが、その方法や兄弟それぞれの思考は陰湿で粘着質で、互いに対する憎悪の描写はこの小説に独特の雰囲気をもたらしているように思えます。このようにエスカレートしていく憎しみの連鎖は、兄のある行動によって新たな展開を見せます。ぜひ兄弟喧嘩の行方と意表を突くラストを確かめてみてください。