ほんとの出会い系ブログ

今まで出会った本をご紹介します。人気の作品や良書と呼ばれる本が多いと思いますので、出会いのきっかけになれば幸いです。

イン・ザ・プール

イン・ザ・プール (文春文庫)

イン・ザ・プール (文春文庫)

奥田英朗さんの短編小説集です。第127回直木賞候補となった作品で、のちにドラマ化や映画化、アニメ化されています。

全5編からなる短編集で、すべて伊良部一郎という神経科の医師の元を訪れてくる患者たちの物語です。神経科の医師というとカウンセリングや薬の処方などで患者の症状を改善させていくイメージですが、この伊良部一郎という男はカウンセリングなどしないと断言し、患者に対して冗談に聞こえるようなアドバイスをしてみたり、自分がやりたいことを優先してみたり、子供がそのまま大人になったような人物です。

例えば小説のタイトルと同じ「イン・ザ・プール」という話では、ストレス性の体調不良を訴える出版社勤務の大森和雄に対し、ストレスの元を探して根絶しようなんて無駄なことと言い放ち、せいぜい運動することをアドバイスするくらいです。一方、運動をすすめられた大森和雄は近所の区民体育館のプールで水泳を始めるのですが、次第にのめり込み、伊良部も誘って二人でプールに行くようになります。プール依存性のようになってしまった二人は自由に長時間泳ぎたいという欲求が増していき、ついに伊良部は夜のプールに忍びこむことを計画します。

この他にも次のような短編があります。

  • 妻に浮気されて別れた男性の「勃ちっぱなし」
  • 誰かの視線を感じると訴える自意識過剰な女性の「コンパニオン」
  • 一日200回以上の携帯メールで友達と繋がっていたい男子高校生の「フレンズ」
  • たばこの火の始末が気になって何度も確認せずにはいられないルポライターの「いてもたっても」

それぞれの患者が伊良部のいい加減とも思えるような診察を受けて結果的に救われていく様子は、読んでいて不思議な爽快感があります。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。〈7〉 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。〈7〉 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」第7巻です。修学旅行のエピソードが描かれます。また、巻末には第6巻の文化祭直後の打ち上げエピソードも収録されています。

文化祭や体育祭が終わり、次の大きなイベントである修学旅行の季節です。奉仕部はいつものように部室で過ごしながら、修学旅行についてとりとめもなく話していました。そこへ八幡と同じクラスの葉山、戸部、大和、大岡の男子4人組みがやってきます。相談の内容は、戸部が修学旅行で海老名さんに告白したいのでサポートしてほしいというものでした。あまり気が乗らない八幡と雪ノ下でしたが、由比ヶ浜に押されて引き受けることになります。

ところが、恋愛経験の浅い奉仕部のメンバーに効果的なアドバイスができるわけでもなく、とりあえず戸部にアピールポイントなどをヒアリングしてみるものの特に収穫はありません。むしろ失敗することが目に見えています。そうしているうちに、今度は海老名さんが奉仕部に訪れ、いつものグループが今までと少し変わってしまったことを相談します。

修学旅行の行き先は京都です。戸部と同じクラスである八幡と由比ヶ浜は、グループ決めから新幹線の座席、一日目の清水寺、二日目の太秦映画村など、戸部のために作戦を立ててみますが特に進展は見られません。そしてついに修学旅行最終日である三日目を迎えます。

第7巻はストーリー上は戸部が海老名さんとの仲を深めるための修学旅行ではありますが、当然奉仕部のメンバーにとっても高校で一度きりの修学旅行であり、特に由比ヶ浜は積極的に楽しんで八幡との思い出を作っているようです。また、夜に偶然会った八幡と雪ノ下、平塚先生の三人でラーメンを食べ、帰りは八幡と雪ノ下が二人で付かず離れずの距離で歩いたエピソードも印象的です。

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機動戦士ガンダムUC(8) 宇宙と惑星と

小説版「機動戦士ガンダムUC」の第8巻です。再び宇宙が舞台となります。

オーストラリアのトリントン基地での戦闘後、ネェル・アーガマの協力で再び宇宙へ上がったバナージとガランシェール隊は、そのままネェル・アーガマへ乗艦します。ガランシェール隊にユニコーンガンダムを奪われる形となった連邦軍は、トライスターやリディを乗せた旗艦ゼネラル・レビルを追撃に向かわせます。ネェル・アーガマは、袖付きと連邦軍の追撃から生き延びるため、単独でラプラスの箱を確保すべく、ラプラス・プログラムが示す次の座標「L1ジャンクション」へ向かうことを決断します。

第8巻はアニメ版の episode 6「宇宙と地球と」に相当しますが、ネェル・アーガマ内の出来事は大きく異なります。まず、袖付きのフルフロンタルはジオン共和国のモナハン・バハロ国防大臣に協力を要請し、政治団体「風の会」所属のジオン共和国軍人ギリガンらをネェル・アーガマに向かわせます。ネェル・アーガマではL1ジャンクションに到着後、ユニコーンガンダムとエコーズによる調査が開始されますが、そこでジオン共和国のモビルスーツから襲撃を受けます。一方、ネェル・アーガマに乗るガランシェール隊は密かにジオン共和国軍を誘導し、ネェル・アーガマを占拠します。

このように小説版ではネェル・アーガマのオットー艦長以下の乗員からエコーズ、タクヤやミコット等の民間人も含め、一時ほぼ全員が袖付きの管理下に置かれ、アニメ版とはまた違った緊迫感のあるストーリーとなっています。また、連邦政府の傀儡国家であるジオン共和国と政治団体「風の会」も小説版にしか登場せず、本作品の政治的背景をより興味深いものにしています。第8巻はすでにアニメ版を視聴している方にも読み応えのあるストーリーなのでおすすめです。

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天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)

守り人シリーズ第8巻の「天と地の守り人」第1部ロタ王国編です。「天と地の守り人」は全3部構成で、前巻の「蒼路の旅人」の続きです。

「蒼路の旅人」ではサンガル王国へ侵攻した強大な軍事力を持つタルシュ帝国ですが、その触手はついに新ヨゴ皇国にも伸びていきます。タルシュ帝国から枝国になるよう迫られた新ヨゴ皇国は鎖国を宣言し、隣国のサンガル王国、ロタ王国、カンバル王国との国境を封鎖してしまいます。そんな中バルサは、ひそかに商人などの国境越えを助ける仕事を請け負っていました。

ある日、バルサは国境越えの途中で新ヨゴ皇国の元海軍上級海士のオルと出会い、新ヨゴ皇国の狩人ジンからの手紙を受け取ります。それは、チャグムを助けるためにロタ王国へ向かってほしいという依頼でした。バルサは、チャグムが旅費として持っていたという宝石を手掛かりに、ロタ王国のツーラム港へ向かいます。

一方、新ヨゴ皇国ではチャグムは死んだことになっており、シュガの立場は危ういものとなっていました。また、迫りくるタルシュ帝国の侵攻に備えて草兵が駆り出され、その中にはタンダも含まれていました。さらには新ヨゴ皇国の内部に、タルシュ帝国への内通者がいたのです。

守り人シリーズにてこれまで登場した国々を巻き込んで、壮大な物語がついにこの3部作で完結します。チャグムを探すバルサ、戦場に駆り出されたタンダ、チャグムがいないまま新ヨゴ皇国が生き延びる道を模索するシュガ、ロタ王国編は彼らがこれから直面する危機を予感させます。

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生存者ゼロ

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

2013年の第11回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。ストーリーの主な舞台は北海道です。

北海道根室沖の石油掘削プラットフォームに向かった陸上自衛官の廻田三等陸佐たちは、そこで職員全員の死体を発見しました。しかも室内は血の海で、死体は皮膚がただれ筋肉や骨がむき出しのかなり傷んだ状態、もがき苦しんだように上体はのけ反っており、それは強毒なウイルスや細菌に感染したような状況でした。

理化学研究所感染症学者である富樫博士は政府に呼び出され、石油掘削プラットフォームの事件から感染拡大を防ぐために協力を求められます。政府の対応に不満を抱きつつも協力することにした富樫でしたが、死亡の経緯や感染経路の解明は思うように進みません。そんな中、政府は感染拡大が無いことを理由に事態は終息したと判断します。

ところがしばらくして今度は北海道の中標津で同様の事件が起きます。街中の人々が無残な姿で死亡していました。ついに北海道へ上陸してしまった感染拡大の恐怖と対応が後手に回る政府、徐々に感染の真相に近付いていく廻田や富樫たちと、時間とともに恐怖が加速していく展開は王道のパニックスリラーといえるでしょう。

北海道の札幌は全国で人口が5本の指に入る大都市です。感染が札幌へ到達したときの被害は計り知れません。それを想像しながら読み進めると、よりスリルを感じられるかもしれません。読み終わった後は、この壮大なスケールとスピード感は映像化してもおもしろそうだと思う一方、グロテスクな描写をそのまま映像化するのは厳しいかもしれないと思いました。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6.5

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」第6.5巻です。この巻は第9巻の後に出版され、第6巻と第7巻の間の体育祭のエピソードが描かれます。また、巻末には第9巻の直後のクリスマスパーティのエピソードも収録されています。

文化祭が終わり、いつものように部室で過ごしていた奉仕部の三人に、悩み相談メールに答えるという新たな活動内容が平塚先生から与えられました。今回はその中で三浦優美子と城廻めぐり先輩のメールがストーリーのきっかけとなります。

三浦優美子の相談は、文化祭の一件以来、相模南とその周辺のせいでクラスの雰囲気が悪いという内容でした。それは同時に八幡への風当たりが強くなったということでもあり、八幡はそのうち収まるので放っておいてよいと言いますが、雪ノ下と由比ヶ浜は解決する気でいます。

城廻めぐり先輩の相談は、体育祭を盛り上げるために目玉競技のアイデアを出してほしいというものです。また、体育祭運営委員会の委員長が決まっていないという問題もありました。委員長の問題と三浦優美子の相談を一気に解決するために、雪ノ下は文化祭の実行委員長を経験した相模を運営委員長にすることを提案します。

なんとか相模を委員長にして運営委員会に臨んだ奉仕部でしたが、文化祭同様またしても一筋縄ではいきません。相模を委員長にしたことで委員会を構成する各運動部有志が徐々に非協力的になり、それはスケジュールに影響が出てくるほどでした。そこで八幡はやや強硬な方法で打開しようとします。

これまでの八幡は「ぼっち」とはいうものの、それは周囲からの無関心の結果でした。ところが今回は、第6巻の文化祭が原因で陰口や嫌がらせを受けるシーンがあります。悪意の結果としての「ぼっち」です。そのような状況があったからこそ、雪ノ下と由比ヶ浜が三浦優美子の相談に、八幡以上にやる気を見せたと言えるでしょう。好意の結果として。

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機動戦士ガンダムUC(7) 黒いユニコーン

小説版「機動戦士ガンダムUC」の第7巻です。地球を舞台とするのはここまでで、次巻から再び宇宙に上がります。

ダカールでの戦闘後、ユニコーンガンダムは兄弟機ともいえる2号機「バンシィ」に捕獲され、バナージはラプラス・プログラムが示した次の座標についてラー・カイラムで取り調べを受けます。一方、オードリーもビスト財団当主代行のマーサの指示によってマーセナス邸からラー・カイラムへ移送されます。マーサはラプラスの箱の開放を阻止すべく、オードリーを取り込み、鍵であるユニコーンガンダムとそのパイロットであるバナージをまとめて掌握しようと画策していました。ラー・カイラムはマーサたちを宇宙へ送るためにオーストラリアのトリントン基地へ向かいます。

ところが、ユニコーンガンダムの動きをサイコモニターで受信していたガランシェールも、ユニコーンガンダムとバナージ奪還のためにトリントン基地に向かっていました。しかも、地球のジオン残党兵カークスたちに協力を仰ぎ、陽動作戦を展開させます。こうしてトリントン基地に着いたラー・カイラムは、ジオン残党兵のモビルスーツによる奇襲とガランシェール隊による奪還作戦に対して応戦しつつ、マーサたちを連邦軍の最大級の輸送機ガルダへ移送します。

アニメ版の episode 4「重力の井戸の底で」では、ロニとカークスが共に連邦軍のトリントン基地を襲撃しますが、小説版では第6巻のロニのダカール作戦と第7巻のカークスのトリントン作戦はまったく別の作戦として描かれます。そのため第7巻はアニメ版の episode 5「黒いユニコーン」に相当しますが、作戦の経緯や戦闘シーンが異なります。

  • バナージの取り調べシーンではやりとりが詳しく描かれます。特にアルベルトが尋問に参加した際の身内ならではの追及は、バナージに対するアルベルトのコンプレックスのようなものが感じられます。
  • アニメ版ではラプラス・プログラムが示した座標としてトリントン基地に向かいますが、小説版では目立たずに宇宙へ上がるため僻地のトリントン基地へ向かいます。
  • ガランシェール隊と合流したカークスは、トリントン基地襲撃に参加するジオン残党兵に対して司令として呼びかけます。ジオン残党兵が詳しく描かれるのも小説版の特徴です。
  • トリントン基地の戦闘ではラー・カイラムが標的となるため、大きな損害を受けます。アニメ版では直接ラー・カイラムが攻撃を受けることはなかったので対照的です。

小説版ではアルベルトがより人間臭く描かれているように思えます。アニメ版では表情や仕草だけで描かれるようなシーンも、小説版では心情や言動が詳細です。第7巻では特にバナージに対する敵意のような感情や、マリーダに対する特別な感情がより明確になったように思います。アルベルトに注目するのも小説版を深く楽しむまたひとつの方法かもしれません。

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