山椒大夫・高瀬舟
「興津弥五右衛門の遺書」は切腹の理由を子孫に残すという内容で、森鷗外の歴史小説の始まりとされる作品です。「護持院原の敵討」は敵討(かたきうち)という制度や、情報や交通手段が限られた時代に敵を探す旅の過酷さが描かれます。危険な旅に女は連れていけないと言われた娘りよの無念の涙の場面には思いがけずぐっときました。
「最後の一句」は父の冤罪を信じる娘の強い意志と役人との対比が印象的な作品、生き別れた家族の運命を描く「山椒大夫」や弟を殺したという罪人との会話から安楽死について考えさせられる「高瀬舟」は後期の代表作として有名です。いずれの作品も家族の絆が感じられますが、特に後期の作品は歴史というより昔話のような柔らかい印象を持ちました。
そのほか、軍医としての森鷗外の知識が垣間見える「カズイスチカ」、「舞姫」の後日談ともいえる「普請中」、「鶏」とともに小倉三部作の一つに数えられる「二人の友」(あと一つは「独身」)なども収録されています。